日本のがん検診受診率は50%未満と、依然として低いままです。その理由の一つには、「検診結果は本当に信頼できるのか?」という不安を抱いている人が多いことが挙げられます。特に、「偽陽性」や「偽陰性」といった結果が出ることがあると聞くと、ますます混乱するかもしれません。
「がん検診は受けるべきなのか、それとも不要なのか?」といった疑問を抱く方も多いでしょう。しかし、がんを早期に発見し、治療を開始するためには、がん検診には大きなメリットがあります。本記事では、がん検診のメリットとリスクを踏まえ、どのように検診を選択すべきか、一緒に考えていきましょう。
がんの偽陽性・偽陰性とは
がんの偽陽性・偽陰性とは、検査結果が実際の状況と一致しないことを指します。つまり、がんがないにもかかわらず検査で「がんがある」と判定される場合を「偽陽性」といい、逆にがんがあるにもかかわらず「がんがない」と判定される場合は「偽陰性」です。
このような結果が生じる原因は、検査技術の限界や体質・他の病気など、さまざまな要因が関与しています。偽陽性と偽陰性について、それぞれ詳しく解説します。
偽陽性
偽陽性は、「がんではない(陰性)」なのに、検査で「がんである(陽性)」と判定されてしまうことです。「にせの陽性」という意味で偽陽性と呼ばれます。
がん検診の仕組みは、まず広くがんの疑いがある人を見つけ、その中から精密検査でがんを診断するという流れになっています。このため、偽陽性をゼロにすることは困難です。
検査の特性上、ある程度の偽陽性は避けられませんが、精密検査によって最終的にがんがないことが確認される場合も多くあります。
偽陰性
偽陰性は、実際には「がんである」(陽性)のに、検査で「がんではない」(陰性)と判定されてしまうことです。「にせの陰性」という意味で偽陰性と呼ばれます。
がんは発生してからある程度の大きさに成長しないと検査で発見されにくいため、1回の検診で必ず見つかるわけではありません。そのため、がん検診は1回だけで終わらせず、適切な間隔で定期的に受けることが重要です。
偽陽性と偽陰性はどちらが怖い?
偽陽性と偽陰性、どちらがより危険かを一概に決めることは難しいですが、特に注意が必要なのは、偽陰性です。偽陰性は、がんを見落とす結果につながり、放置されたがんが進行して治療が遅れるリスクが高まります。
偽陽性の場合は、実際には「がん」ではないにもかかわらず「がんの疑い」と診断され、再検査や精密検査を受けることになります。これにより、身体的な負担や不必要な医療費がかかるだけでなく、受診者に大きな心理的負担を与えるという問題があります。しかし、最終的にはがんがないことが判明するため、重大な健康リスクは回避されます。
一方で、偽陰性の場合、がんがあるにもかかわらず見逃されてしまうことで、がんが進行してしまう危険性があります。特にがんの早期段階であれば、治療の選択肢が多くあり、軽い治療で済む可能性が高いです。
しかし偽陰性は、がんの早期発見の機会を失ってしまう恐れがあります。早期発見・早期治療ががん治療の鍵となるため、偽陰性によってその機会を失うことが、健康に深刻な影響を与える可能性が高いのです。
がん検診は受けない方がいいの?
がん検診には「対策型検診」と「任意型検診」の2種類があります。
対策型検診とは、科学的根拠が確立されている検診で、死亡リスクを減少させる効果が証明されたものです。具体的には、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5種類のがんが対象となっており、これらの検診は国が推奨しています。性別や年齢によって受けるべき検診の種類が決まっており、対象となる方には積極的に受診することが推奨されています。
種類 | 受診対象者 | 受診頻度 | 検査項目 |
子宮頸がん検診 | 20歳以上の女性 | 2年に1回 | 問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診 |
肺がん検診 | 40歳以上 | 年に1回 | 質問(問診)、胸部X線検査および喀痰細胞診 |
乳がん検診 | 40歳以上 | 2年に1回 | 問診および乳房X線検査(マンモグラフィ) |
大腸がん検診 | 40歳以上 | 年に1回 | 問診および便潜血検査 |
胃がん検診 | 50歳以上 | 2年に1回 | 問診、胃部X線検査または胃内視鏡検査のいずれか |
一方で任意型検診は、対策型検診に含まれていないがん検査です。これらの検査は、死亡リスクを減らす効果が科学的に証明されていない場合が多く、検査費用や体への負担を考慮して、検査の必要性を慎重に検討することが重要です。
がん検診には利益と不利益があるため、特に科学的に効果が確認された検診を選ぶことが大切です。ここからは、がん検診を受けることで生じる3つのデメリットについて詳しく解説します。
偽陽性・偽陰性の結果が出ることがある
有効性が証明されたがん検診であっても、偽陽性や偽陰性が発生する可能性があります。がん検診を受けた結果、2~10%程度の人はが「がんの疑いがある(陽性)」と判定されます。しかし、その後の精密検査で実際にがんと診断されるのは、そのうちの10%未満です。
一方、がん検診を受けたほとんどの方は「異常なし(陰性)」という結果が出ますが、その中でも約0.1%、つまり1000人に1人程度が、検診後にがんが発症し、最終的にがんと診断されることがあります。
このため、がん検診は1回だけで終わらせるのではなく、適切な間隔で定期的に受け続けることが非常に重要です。
過剰診断を受けてしまう
過剰診断とは、生命を脅かさないがんを検診で発見してしまうことを指します。例えば、前立腺がんや甲状腺がんなどの一部には、成長が非常に遅い、あるいは自然に消えてしまうがんがあり、これらは治療をしなくても命に影響を与えない場合があります。
しかし、現在の医療技術では、どのがんが進行して生命に影響を与えるのかを正確に見分けることは困難です。そのため、発見されたがんは進行がんと同じように治療が行われることが一般的です。
結果として、本来は治療の必要がないがんに対しても、身体的・心理的・経済的な負担を伴う検査や治療が行われることがあります。これが「過剰診断」のデメリットであり、注意が必要です。
偶発症が起きることがある
偶発症とは、検診や精密検査に伴って発生する合併症などの医療トラブルのことを指します。がん検診においては、まれに出血などの合併症が起こり、入院が必要になるケースがあります。大腸がんや胃がんの内視鏡検査中に発生するトラブルや、バリウム検査での誤嚥、腸閉塞、放射線被ばくなども偶発症の一例です。
がん検診を受けて早期発見するメリット
がん検診の最大のメリットは、がんを早期に発見し、治療を始めることで、がんによる死亡リスクを大幅に減少させることです。
早期発見は、特定のがんによる死亡を防ぐことだけでなく、治療が軽度で済んだり、その他の病気の発見につながったりするメリットがあります。
治療効果が高くなる
がんは早期に発見されることで、生存率が大幅に向上します。がん治療の成功は、5年間再発がない状態が続けば「治癒」とみなされます。全国がんセンターの調査によれば、進行がん(ステージ4)で見つかった場合の5年生存率は23%にとどまるのに対し、早期がん(ステージ1)で見つかった場合は94%にもなります。
さらに、早期に見つかったがんは、進行がんに比べて治療による身体的な負担が軽く、経済的負担や治療にかかる時間も大幅に減らすことができます。
がん以外の病気も見つけられる
がん検診では、がんそのものだけでなく、がんになる前の病変も発見できることがあります。
例えば、子宮頸がん検診では子宮頸部異型上皮、大腸がん検診では大腸腺腫(ポリープ)といった前がん病変が見つかることがあります。これらの病変は、適切に治療することでがんの発生を防ぐことができ、結果的にがんによる死亡リスクを減らすことが可能です。
まとめ
がんは、検査によって早期に発見することが可能です。確かに、偽陰性や偽陽性といった問題も存在しますが、早期発見・早期治療によって治癒する可能性が高まるため、がん検診にはそれ以上のメリットがあります。
しかし、忙しくて検診のための時間が取れないという方も多いのではないでしょうか。近年では、科学技術の進化により、自宅で簡単に使えるがん検査キットも登場しています。その一例が、唾液を使ってがんのリスクを調べる「サリバチェッカー」です。
サリバチェッカーは、慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究成果をもとに開発された検査キットで、唾液中のがん代謝物を超高感度分析装置で測定し、AIを用いて解析することで、がんの可能性を調べます。いくつかのがんに対して高い精度が海外の研究論文で示されています。
ただし、サリバチェッカーだけでがんの診断を確定することはできませんが、リスクを把握することで、医療機関に相談したり、がん検診を受ける際の参考にしたりすることができます。ぜひ一度、試してみてはいかがでしょうか。