東京ミッドタウンクリニック 総院長である田口先生と、当社代表であり膵がんの権威でもある医師の砂村が医療経済の制約の中でどのように限られた資源を活用し、AI(学習モデル)や遺伝子検査を駆使した精度の高い予防医療を実現するかについて対談しました。
予防医療の課題とデータ統合の重要性
砂村CEO:
今の医療経済の中で、医療費は限られています。限られた資源をどのように活用して、より良い社会を作り上げるかが重要と考えています。
田口院長:
予防医療の課題は、国民皆保険制度と密接に関連しています。
人間ドックなどの検査は自費で行うことが多く、今後より一層精度を上げることが求められると思います。例えば、画像診断にAI(学習モデル)を活用することや、各機関に散らばっているデータを統合して経時的な変化を追うなど、今あるデータをどう活用するかが重要になってくると考えます。
具体的には既存の検査にて取得したデータに対し、AI(学習モデル)を使ったデータをかけ合わせることで検査の質の向上につなげることです。これにより取り漏れを防ぐことができると考えています。予防医療に関してもAI(学習モデル)に関係しますが、日常のデータを活用することも重要で、パーソナルヘルスレコード(PHR)の概念が注目されています。
例えば不整脈の場合、アップルウォッチによるモニタリングが優先されるのですが、デジタルヘルスのデータを活用して将来を予測するような予防的なアプローチを行うことも期待されます。
また厚生労働省の医療イノベーション室などとのやりとりから始めているのが、遺伝子検査のホールゲノムなどの普及が本当にできるのかという話や、若い世代から健康データを収集して将来的なリスクを評価する「デジタルツイン技術」が注目されています。
若い時からの遺伝的傾向、家族歴、小学生・中学生からの健康診断データを入れたうえで、その人の将来像を予測し、適切な対策を講じることができます。
新しい検査を考えたときに、一日フルパッケージの人間ドックだけでなく、必要な検査を追加して経過をみてゆくアプローチも検討されています。サリバチェッカー+血液検査を年に4回の定期的な補助検査として使用することで取り漏れを防いでいます。最適な組み合わせを見つけるためには、実際にデータを収集し、フィードバックを行いながら改善していく必要があります。
国民のデータベース作りも重要だと考えています。
予防医療で別にやっているのは、ファーマコジェネティックスという薬理遺伝学のコンソーシアムの設立を進めていて、遺伝学的検査を通じて個々の薬剤反応を事前に知ることで、最適な治療を提供する取り組みが進んでいます。HLA遺伝子の情報も含め、これらのデータを統合することが最も重要だと考えています。
AI(学習モデル)技術を活用した予防医療の革新:健康データの一元化と経年的リスク評価の重要性
砂村CEO:
例えば一人ひとりの健康データが、健診施設や日常診療のデータとして別々に存在している現状があります。これらのデータを一元化し、個人のマイページに統合することで、経年的なデータの動きを追い、変化を基にリスク評価を行うことができれば素晴らしいと思っています。
田口先生のクリニックのようにデータを毎年積み重ねて管理していれば、例えば動きに特徴的な変化があったときに膵臓をしっかり診ないと危ないなど、具体的な予測と早期介入ができると思っています。
田口院長:
現在取り組んでいるプロジェクトの一つに、「エムビジョンヘルス」があります。これは、エム社が開発したもので、脳ドックのMRI画像を用いてAI(学習モデル)技術による詳細な解析を行い、脳の萎縮や白質病変などの指標を数値化し、総合的に評価するものです。
この技術を用いて、頭部のMRIデータを約500箇所に分類し、各部位のボリュームを計算します。これにより、日本人の平均データと比較し、個々の偏差を数値化することが可能になりました。特に脳室の変化が重要で、経年的な変動を追うことでリスク評価が可能です。
また、東芝のAI(学習モデル)を使って生活習慣データと健診データを基に1年後から5年後までの糖尿病の発症リスクを高精度で予測も行っています。今後は健診データを正規化し、家族歴や生活習慣も考慮することで、予測精度をさらに向上させることが目標です。
さらに、NTTと協力して遺伝子検査を含めたリスク層別化プロジェクトを進めています。具体的には、家族歴と遺伝子データを用いて、膵がんのリスク層別化を行い、リスクの高い人に対して健診を推奨するプロジェクトをNTT東日本の伊豆病院で実施しています。今年の学会でその成果を発表する予定です。このようなジェネティックリスクの活用が本当に使えるのか、という点に関しては継続した研究は必要である一方、膵がん検診の受診検討者が倍になったとのことです。
多角的な診断技術の組み合わせによる予防医療の進化
田口院長:
予防医療の啓蒙が重要と考えています。
システムを整備し、例えば膵がんの早期発見のために、尾道のトライアルのようなアプローチを採用することができます。適切な人々にプッシュ通知を送る仕組みも有効です。その際に使用するツールとして、サリバチェッカーが考えられます。
早期発見のためには複数の切り口での判断が重要となります。そのため当院ではサリバチェッカーだけでなく、採血項目も併用しております。
加えて新しいツールとして、マイクロRNAのような技術も組み合わせ、精度の高い診断を目指しています。さまざまなチームが協力し、最適な組み合わせを見つけることで、より効果的な予防医療を実現できると信じています。
経年的データの分析と価値の明確化:予防医療の新たなアプローチ
砂村CEO:
ゲノムデータは、生まれた時に決まった設計図として存在します。
しかし、その後の環境因子やさまざまな要因によって、マイクロRNAの発現などが変化し、これが代謝物のメタボロミクスとして捉えられると考えています。メタボロミクスも日常的に変動しますが、マイクロRNAと組み合わせることで精度を向上させることができるのではないかと期待しています。
田口先生は網羅的に検査を行い、データを活用されていらっしゃいますが皆がそうではあるとは限らない、そこを課題と感じています。すべての医師が予防医療に関する前提知識を持つことでより精度の高い医療を実現することが出来ると思います。そういった啓蒙活動が私達の役目ではないでしょうか。そして、健診データなどを活用して精度を上げていくことで、日本の未来型医療を進めていく方向性を見出しています。
田口院長:
そのデータの成果を世の中に発信することが重要です。
例えば、エムビジョンヘルスが健常人の頭部MRIデータを収集できたことは大きな成果と価値があります。健常人のデータを基にばらつきを精査し、正常範囲の変動を示すことができるので、私たちのように多くのデータを持つことで、正常な変動範囲を明確にすることができます。
砂村CEO:
絶対値が高いからリスクが高いというわけではありません。患者様のデータを見てみると、値が高い人でもその範囲内で安定している場合があります。しかし、平均値の中で異常な上昇が見られる場合、その背後には何らかの問題が発生している可能性があります。
健診センターのように定期的にデータを収集し、例えばサリバチェッカーなどを活用することで、より正確な予防医療を提供できると考えています。
田口院長:
日本ではまだ一般的ではありませんが、「エピジェネティックエイジ」という概念があります。これはエピジェネティック(DNA配列の変化を伴わない遺伝情報の変化)な変化を通じて、その人の老化を測るというもので、非常に興味深い検査です。近畿大学の研究では、1日の中で10%の変動があることが確認されました。
この変動を捉えるためには、単一のデータポイントではなく、時間的な変化を追う必要があります。コストとの兼ね合いもありますが、例えば3か月に一回の頻度で検査を行うという提案もあります。このアプローチはまだどこでも実施されておらず、アンチエイジング学会でも発表されていません。
変動を観察することが重要であり、砂村先生がお持ちのデータでも、各項目の変化とそれらの組み合わせを分析することが求められます。特に経年的なデータをしっかりと解説していただくことで、そのデータの価値がより明確になると思います。
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