近年、がんは死亡原因の一位になっており、「がんになった親類がいるけど、自分は大丈夫だろうか」「がんは遺伝するのだろうか…」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。なかでも膵臓がんは発見が遅れる場合も多く、見つかった時には手遅れともよく耳にします。ではがんの予防や早期発見にはどうすればよいのでしょうか。
本記事ではがんの原因や家族歴との関連性、がんの予防策や検査方法などについて解説します。がんになった親族がいる方やがんに不安を抱えている方はぜひ参考にしてください。
父親が膵臓がんだと遺伝する確率は?
父親が膵臓がんだった場合、子供に遺伝する確率は5〜10%といわれています。膵臓がんには遺伝的背景があると確認されており、両親、兄弟、子供が膵臓がんを発症した場合、ご自身も膵臓がんを発症するリスクが増大するのです。
親子または兄弟姉妹に2人以上の膵臓がん患者がいる家系に発症する膵臓がんを「家族性膵臓がん」といい、膵臓がん全体の5〜10%を占めています。
国立がん研究センターによると、家族性膵臓がん患者の約16%に原因遺伝子のバリアントが見つかったとの報告もあります。さらに、欧米では家族性膵がんとその関連遺伝子の存在は周知されていましたが、日本でも同様に認められ、新規の関連候補遺伝子も特定されたとされています。
※バリアント:遺伝子がなんらかの原因で後天的に変化することをいい、がんの発症に関わるものを病的バリアントという
参照:国立がん研究センター| 日本人の家族性膵臓がん関連遺伝子を解明
がんが遺伝する仕組み
がんそのものは遺伝するわけではありません。がんになりやすい遺伝子が引き継がれる可能性はありますが、遺伝子に異常が生じなければがんは発症しないと考えられています。
人間の遺伝子は約2万種類あり、父親と母親から一つずつ受け継がれた二つがセットで一つの遺伝子を構成します。どちらかにがんになりやすい遺伝子が引き継がれたとしても、もう一方の遺伝子が正常であればすぐにがん化が始まるわけではありません。後天的に何らかの原因で正常な遺伝子に異常が起こるとがん化が始まると考えられています。
がんが発症する原因
がんの発症は父親と母親から1つずつ引き継がれた遺伝子の両方に異常が起こるのが原因と考えられています。遺伝子が異常を起こす主な要因は以下の3つです。
- 加齢
- 環境要因(生活習慣、環境など)
- 遺伝的要因
加齢や環境要因は後天的な影響で遺伝子に異常を起こします。環境要因として考えられているのは以下の通りです。
- 喫煙
- 大量の飲酒
- 不適切な食事
- 運動不足
- 細菌やウイルスなどの感染
上記によって遺伝子に異常を起こすと考えられていますが、まだ原因不明のがんも多く全てが原因となるわけではありません。
遺伝的要因は、先天的にがんになりやすい遺伝子を2つとも引き継いでしまい発症する場合です。特に環境要因の影響が少ない子供がなるがんの場合、遺伝が関与していると考えられています。
家族歴がある場合の発症リスク
家族に膵臓がんを発症した人がいる場合、発症リスクは1.6〜3.4倍になるといわれています。
また、第一度近親者(親子、兄弟姉妹)に膵臓がんの発症者が2人以上いる場合を「家族性膵臓がん家系」といい、より発症リスクが高いのが特徴です。
家族性膵臓がん家系の膵臓がんリスクは以下の通りです。
膵臓に罹患した家族の人数 | 自分自身がすい臓がんに罹るリスク |
1人 | 3.2倍 |
2人 | 約6.4倍 |
3人以上 | 約32倍 |
参照:NPO法人パンキャンジャパン|遺伝子と家族性膵がんについて
親の膵臓がん発症要因が後天的か先天的なのかによっても注意度が異なります。
- 親のがんが後天的な要因によるものだったケース
- 親のがんが先天的な要因によるものだったケース
それぞれの違いについて見ていきましょう。
①親のがんが後天的な要因によるものだったケース
親のがんが加齢や生活習慣などの後天的な要因だった場合、子供に遺伝子異常は引き継がれません。しかし以下の場合、親子で同じ環境要因の影響を受けやすいため注意が必要です。
- 親が喫煙者
- 親が大量に飲酒をする
- 親の食事量や間食が多い
親の生活習慣に子供が類似する場合が多く、子供も後天的な要因による発症リスクが高まりやすいと考えられています。
②親のがんが先天的な要因によるものだったケース
親のがんが先天的な遺伝子異常によるものだった場合、その遺伝子が子供に引き継がれる確率は50%です。
例え父親の遺伝子に異常があったとしても、異常のない遺伝子を母親から引き継げば、すぐにがん化が始まるわけではありません。
先天的に異常のある遺伝子を引き継いでしまった場合、セットとなるもう1つの遺伝子に後天的な異常をきたし、2つの遺伝子に異常が生じるとがん化が始まります。
親が若年で膵臓がんを発症した場合は、異常のある遺伝子が2つ引き継がれている可能性が高いため要注意です。
ただし、先天的遺伝子異常がある場合でも、全員ががんになるとは限りません。膵臓がんの場合、約5〜10%が先天的遺伝子異常によるものと考えられています。
祖父母が膵臓がんだった場合も遺伝する?
祖父母が膵臓がんだった場合も、異常のある遺伝子を引き継ぐ可能性があります。
祖父母の先天的異常のある遺伝子を引き継ぐ確率は25%、曽祖父母からは12.5%です。血縁関係が近いほど先天的異常のある遺伝子を引き継ぐ確認は高くなっています。
また、家族性膵臓がんの基準には満たないものの、近親者に発症した膵臓がんは「散発性膵臓がん」と呼ばれており、発症リスクは1.7〜2.4倍になるとの報告もあります。
遺伝や家族歴のがんが気になる方は遺伝カウンセリングを受けて、第三度近親者の病態まで把握しておくのが望ましいでしょう。
がん家系の人がやっておくべき予防策
公益財団法人がん研究振興財団の「がんを防ぐための新12か条」によるがん家系の人がやっておくべき予防策は以下の通りです。
たばこは吸わない他人のたばこの煙を避けるお酒はほどほどにバランスのとれた食生活を塩辛い食品は控えめに野菜や果物は不足にならないように適度に運動適切な体重維持ウイルスや細菌の感染予防と治療定期的ながん検診を身体の異常に気がついたら、すぐに受診を正しいがん情報でがんを知ることから
出典:公益財団法人 がん研究振興財団|がんを防ぐための新12か条
近年の研究結果からがんのリスクを高める生活習慣・環境・その他の環境因子が明らかになってきています。上記の12か条は現状で推奨できる科学的根拠に基づいたがん予防法です。生活習慣に偏りがないかどうかを見直し、必要であれば改善し、ストレスのない範囲で継続するようにしましょう。
遺伝性膵臓がんのリスクを調べるには遺伝子検査を実施
遺伝性膵臓がんのリスクを調べるにはがん遺伝子検査を実施しましょう。遺伝子検査とは、遺伝子が有する情報を解析し、先天的になりやすい病気や体質などを調べる検査です。
近年、がんの医療では遺伝子情報に基づく個別化治療がおこなわれています。個別化治療とは、がんの種類別に治療するのではなく、遺伝子変異などがんの特徴に合わせて一人ひとりに適した治療を実施する方法です。がん遺伝子検査は病院で受ける場合と自宅で簡易的に受ける場合の2つに大別されます。それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
病院で遺伝子検査を受ける場合
病院で受けるがん遺伝子検査には主に以下の方法があります。
【がん遺伝子パネル検査】
がん組織や血液から遺伝子を取り出し、がん関連遺伝子に変化があるかどうかを解析します。「次世代シークエンサー」という解析装置を用いてがんに関わる多くの遺伝子を同時に調べるため、従来の方法ではわからなかった変化を見つけやすいのが特徴です。検査のみの医療費は56万円です。保険適応となるので3割負担の方は16万8000円で検査が受けられます。
【遺伝学的検査】
遺伝子はDNAと呼ばれるA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)の4つの化合物が並んだ物質で、それぞれの文字で書かれた情報として捉えられています。遺伝子検査は、DNA4つの文字配列を調べる検査です。DNAの文字配列は人によって異なり、「バリアント」や「変異」と呼ばれています。がん検査で実施される遺伝子検査は以下の2つに分けられます。
- 体細胞遺伝子検査:がん細胞で生じている遺伝子の配列を調べる検査
- 生殖細胞系列遺伝子検査:先天的に持っている遺伝子の配列を調べる検査
検査のみの医療費は50000円程度です。保険適応となるので3割負担の方は15000円程度です。
家で遺伝子検査を受ける場合
市販されている検査キットを使用して手軽に自宅で遺伝子検査する方法もあります。唾液や尿などを採取するだけでがんのリスクが調べられるため、痛みもなく体への負担がほとんどありません。
検査に不安がある方や、体に負担をかけたくない方は家でできる遺伝子検査を受けるとよいでしょう。検査方法の種類にもよりますが、数万円程度で受けられるものが多いです。市販の遺伝子検査を受ける場合、信頼できる医療機関と提携している、専門家のサポートが受けられるなどを満たしている条件が推奨されます。
まとめ
膵臓がんは家族歴の影響が懸念され、遺伝的要因によって罹患するリスクが高まる可能性があります。がんは予防できない部分もありますが、早期発見と適切な対策を講じてリスクを減らすのが重要です。家族歴がある方は、ぜひ専門医を受診し、自分に合った予防策を見つけましょう。病院での検査に抵抗のある方や、体に負担をかけたくない方は、自宅でも手軽にできる遺伝子検査もありますので検討してみてください。